バレンタインにチョコを用意したものの、渡す事が出来ないクラウド。自分で食べようと口に入れた所でザックスがドアをぶち破ってきて――
2021/2/20発行。再録です。他人が見たらきっと笑ってしまうぐらい当たり前の事を、当たり前に飲み込めるようになった。
矢継ぎ早に舞い込んでくる依頼を無心で片付け続けた。
2021年クラウドバースデー。
見上げた空が青くて気持ちいい。そんな感覚はいつの間にやら捨て去ってしまっていた。
つたい落ちる汗が胸元を通り抜けて、臍のあたりになじんでいく。
ハマった。多分その一言が一番しっくり来るかもしれない。
アイシクルロッジに宿をとった。別に雪遊びがしたかったわけではないけれど、一面の雪景色を任務外の感覚で味わってみたかったからだ。
嘘みたいに賑やかだったエッジの大通りも、今日はさすがに比較的穏やかだ。
届かない物をとってくれたりだとか、切れた電球を簡単に取り替えてくれるだとか、そういったかわいらしいエピソードなんてものはほとんどない。
広くなくていい、綺麗じゃなくていい、ずっと一緒に生きていけたらそれでいい。それだけが出された最低条件だった。
季節の変わり目が少し過ぎて、人肌に触れるのが苦痛ではなくなってきた。そうなると、隣で寝ているザックスの体温が恋しくなる。
急な雨が別れの丘を濡らしたあと、すぐに広がった真っ赤な夕焼けに少しの間見惚れてしまった。
最高の一日になるに間違いない。そう信じ込んでんだ。
シャワーを済ませて、濡れた髪をタオルで掻き上げながらクラウドの方に目をやった。電気もつけずにテレビにぼうっと目を向ける視線は穏やかで、 まつ毛の影が落ちている。
自分の誕生日って、もーちょっと浮かれたりしないかな。ま、そこがクラウドらしくていいんだけど。2020年クラウドバースデー。
洗っても落ちない、見えない汚れがこびり付いた指の先でクラウドの髪を撫でるザックスの目に光はなかった。
俯いて笑う。すん、と鼻をすすって髪をいじる。その一連の流れに飽きる日は、今の所早々こなさそうで安心した。
そりゃあため息の1つぐらいは出たさ。だけど、戦場なんてどこもこんなもんなんだ、きっと。