急な雨が別れの丘を濡らしたあと、すぐに広がった真っ赤な夕焼けに少しの間見惚れてしまった。タークスにその体を回収され、持ち前の生命力で無事回復したザックスと、残された俺が永遠の別れを誓ったはずの場所。
涼しい風に吹かれて、隣に座る黒い髪がなびく。気持ちよさそうに顔と腕を上に向けて伸びるザックスの口元は柔らかくカーブを描いていて、きっと俺の唇も同じような感じなんだろうな、と思った。
「あそこの家、子供生まれたってよ」
「……そっか、祝いの品を贈らないとな」
「直接会いに行けばいいじゃない」
贔屓の客の1人が父親になったそうだ。きっとその責任感から顔つきも変わるんだろう。それは見てみたいけれど、俺とザックスが2人で祝いに行ったら、生まれたての赤子が怖がって泣いてしまわないだろうか。
「ひでー!こんなに男前なのに?」
「デカいんだよ、ザックスは」
目を見開いて笑う。
つられて俺も笑う。
これだけで十分なんだ。二度と会えないことを朧気に理解した瞬間に覚えた絶望は、もう過去の話。
「体、もう大丈夫なのか」
「おう、この通りビンビンだぜ!なークラウド!」
両手をぶんぶん振り回して、そのまま俺の両肩に手が回される。ぐいっと引っ張られて、地面に座ったまま上半身だけが揺らぐ。ザックスの首筋に触れた自分の頭の隅っこが、熱を受けてじんわり温まっていく。懐かしいような慣れたような匂いと仕草に、鼻の奥がツンと痛くなった。
「ザックス」
「んー?」
「…もう、どこにも行かないでくれ」
ただ生きてるだけでいいんだ。一緒に並んで、こうやって座ってるだけでもいい。それをお前が目を覚ますまで、どれほど祈ったか。もともと信心なんて持ち合わせちゃいない俺がいったい誰に祈ったのかなんて聞かれても、わからない。
キョトンとしたままの青い瞳が俺を見つめる。返事なんて期待しないけれど、黙って見つめ返す。しばらく無言の後、キッと締まった強い意志が ザックスの瞳に宿る。
「クラウド、俺は二度とお前を見捨てたりしない」
「……」
俺はその言葉を良しとはできない。
「……あれ、今のダメ?」
「ダメだな」
なんで?と不思議な顔で返事を返す。だって、それじゃあ俺は首を縦には振れないよ。