届かない物をとってくれたりだとか、切れた電球を簡単に取り替えてくれるだとか、そういったかわいらしいエピソードなんてものはほとんどない。けれど、ただ そこにいるという事実だけで俺は十分満足なんだ。
こんなのはどこにでもある、よくある話だ。
よくある二人のよくある話
腹が減ったと言えば、冷蔵庫からハムを摘まむ。眠くなったらベッドに即ダイブして寝る。本能のようでいて、自分の理性のまんま生きているように見えて少し羨ましかった。真似してハムを1枚拝借して、ついでに薄黄色のすっぱいソースなんかもたらしてみたりなんかして。くるりと丸めて口に放り込むと、酸味の刺激で無意 識に涎が湧き上がってくる。適当に咀嚼して飲み込んで振り返ると、俺より先に、俺と同じ罪を犯したザックスが嬉しそうな顔で立っていた。
「つまみ食い犯はっけーん」
「……、ザックスだってやったくせに」
「お、模倣犯か?」
そうだ悪いか、と返すとこちらに近付き、口元をサッと親指で拭ってぺろりと舐め上げる、まるで漫画の主人公みたいな仕草だと思った。そういう事をさらりとやってのける所は、到底真似出来そうにない。
別にしようとしているわけではないけれど、いいな、とは思う。名前の通りの太陽は今日も元気にスクワットから朝を始めていた。
パンをトースターに放り込む。ぐいっと回したつまみは2つ目のメモリへ戻す。ポットに水を入れてスイッチオンすれば、トースターの焼き上がり音と湯沸かし完了音がほぼ同時に鳴る事をザックスは教えてくれた。
そういう、当たり前の事だけをして毎日生きている。
誰だって毎朝同じ様な時間を過ごしているだろう。頼み込まれて契約したニュースペーパーの配達は、無料お試し期間が終わると同時に断った。
「クラウド、サラダ食う?」
「ああ」
「何かける?」
「酸っぱいやつ」
仰せのままに、とおどけたザックスが勢いよくボトルを振り回した。瞬間、ポコンと音がして、同時にザックスが驚きの声を上げる。
「わーっ!誰だちゃんと蓋閉めなかったの!」
「……俺、か?」
「だろうな」
半開きなのに気づかないまま振り回されたサラダソースの蓋がされるがままに飛んでいき、そして中身が噴出した。それを持つ手がソースまみれになったザックスの手に自然と視線が行ってしまう。
もったいないな、と思った後に、おいしそうだな、と思った。
「……舐める?」
「さっさと洗え」
俺の心の声が漏れていたのかと一瞬焦ったけれど、流石にそこまで見境がないわけではない。ふざけた言葉をかけてくるザックスに怒りで返し、手を洗わせた。
彩りの考慮など一切されていない、葉物野菜を手で引きちぎっただけのサラダをフォークでつつき、口に運ぶ。テレビの向こうでは神羅の職員がモンスターを内緒で飼っていた事で大騒ぎする街の人のインタビュー。バカだな、なんてつっこみを入れるザックスに黙ってうなづく俺の、特に何も変わりのない朝の風景。
それが当たり前になってしまった最近は、最初の方は時々耐え難いほど感じていた違和感すら、抱かなくなってきている。
「しかし暇だな」
「ああ」
「体なまっちまうな」
空になった皿を適当にまとめて、キッチンへ運ぶザックスを目で追いはしなかった。この後に出す言葉を俺はわかっているからだ。
「なーんも予定ないし、大空洞まで行こうぜ。トンベリと遊ばねえ?」
「……俺もそう思ってた」
自分の皿を片付けたその足で、着慣れた服に手を伸ばす。
それぞれが壁に立てかけられたバスターソードと合体剣に、手をかける。
「んじゃ、行きますか」
「ああ」
ずっと一緒にいすぎたからか、だいたいの思考回路が似通ってきている、ただそれだけの事。
こんなのはどこにでもある、よくある話だ。
fin