俯いて笑う。すん、と鼻をすすって髪をいじる。その一連の流れに飽きる日は、今の所早々こなさそうで安心した。クラウドの視線が俺に一瞬向いた後、首筋あたりに落ちて、最後は足元に。
なかなかバッチリ視線の合うことのないトモダチの口元は緩やかにカーブを描いていて、あー、笑ってくれてるならそれで良いや、と心の中で一人納得した。
kissの温度
制服を脱いで下着だけの姿になったクラウドに、キンキンに冷えた炭酸水を差し出した。さらに氷までたっぷり入れて渡したもんだから、早くもグラスは汗をかき始める。ごくん、と喉を鳴らして一口飲んだ後、両眼をギュッと閉じて体に力を入れて耐える。俺なら爽快感に耐えられず叫び出すだろう。だけどそれを必死に抑える姿になんとなくこの間の夜のことを思い出した。
「そういう時、っかー!って言わない?」
「いや……耐える」
へえ、俺超叫ぶわ、と思わず返したら、一人でもそれやるのか?と眉間にシワを寄せて笑う。
「クラウド」
「ん?」
「キスしよ」
一瞬間が開いて、それから俺の目の前に向き直す。
パチリと開いた碧色の目が俺を見据える。
そっと腰に手を回されて、こっちからも回し返した。
「ザックス、目閉じてよ」
「やーだ」
「なんでだよ、恥ずかしい」
恥ずかしいとこが見たくて開けてるんです。そう言い返すと、俺は見たくない、と目を閉じた。間髪入れずに唇に蓋をして、ゆっくり腕に力を込める。少し浮いたクラウドのかかとが、俺に体重を預けてくれる。
「……ふふ」
「んー?」
気持ちいい、と呟いたクラウドの体温が、まだ冷えの浅い部屋にはちょうどよかった。クラウドの手に持たれたまんまの汗をかいたグラスをそっと取り上げて、テーブルに探り探り置く。カラン、となった氷の音を引き金に髪をそっと撫でると、小さな抵抗を見せた後にまた抱きしめられた。
「ザックス、俺もうだめだ」
「したくなった?」
「好きになりすぎたから、もうダメだ」
意味がわからずに目を見開いた。少しだけ恥ずかしそうに視線を落とすクラウドの言いたい事がわからない、でも、そんなに嫌な気持ちにはなってな い。
「そんな悲しいこと言うなよー」
「ザックスのことばっかり考えてる」
「……仕事の時間以外は、ずっとそれでいいじゃない?」
それもそうか、と床にかかとをつける。シャワー浴びてくる、とバスルームに向かう背中をゆっくり見送った。
心なしか今日はよく笑ってくれる、そんな気がした。
fin