カント・カンタータ・カンタービレ
ハマった。多分その一言が一番しっくり来るかもしれない。
クラウドの白い肌に触れて爪を立てると、それだけでダイレクトに反応が返ってくるのが嬉しくて仕方がなかった。半開きの唇から漏れるとろけた声が 俺を酔わせ続け、その時間に没頭している間は何も余計なことを考えずに済む。それが心地よくて、救われるような気がした。 鼻腔を滑り抜けるにおいと汗で湿った肌の上、女の子みたいな柔らかさなんてない体だけど、撫で上げるとビクビク震える脇元に吸いつけば、ひときわ高い声が漏れた。
「ひゃう」
「なんて声出してんの」
「だ、だって……っ」
半ばひきつった表情で皮膚の上を這いまわる俺の指先を目で追う。平らな胸の真ん中にある、ぷくんと膨れた部分を舌先でいじめると、ひくりと生唾を飲み込んだ。もう片方を指の腹で捏ねながら舌の腹で舐め、噛みつき、吸い上げる。
「うぅっ、やだ、ザックス」
「ん」
「うん、じゃ……ないっ」
「こら」
髪を掴まれて、ぎゅうと引っ張られる。離れろという合図だとはわかっていたけれど、そう簡単に手放せるはずもなく。頬を一撫でしてから下半身に手をやると、きつく張り詰めたそこが苦しそうに膨張していた。
利き手と逆の指でボタンを外し、ファスナーを下ろす。下着の上からすりすりと擦ってやると、もどかしそうに膝を立ててクラウドは声を上げる。跳ね上がった片足を腕で支えて腿の裏をつい、と舐め上げ、一番おいしそうなところに噛みついた。
「いっ、痛い、噛むなぁっ」
「ごめん、おいしそうだからつい」
「ば、か」
ひたすら恥ずかしい恥ずかしいと言葉を繰り返し、入り口に自分自身を宛がう時には両手を顔で覆って泣いてまで否定し続けた。とろとろになるまで指で蹂躙し続けて、すっかり受け入れる態勢を整えた後孔は弛緩する。先走りでぬるぬるになったものをゆっくりと押し進めると、喉の奥に押し留め切 れなかった声が途切れ途切れに漏れ始めた。
「は、あっ……う、ううっ」
「苦しい?」
ふるふると首を振り、それを否定する。
クラウドのまどろんだ目は天井を見上げたまま、半開きの唇から深い吐息が漏れた。
腰を持ち上げて、上半身が上になるように膝を入れた。くの字に大きく折れ曲がったクラウドの体は不安定に触れる。ゆっくりと出し入れし、入りきらない部分まで飲み込もうとする入り口にそっと指を滑らせた。
「クラウド、このまま全部入れていい?」
「だ、めだ……それ以上ダメ、ぇぇっ」
返答を聞かないうちに一番奥を突き上げる。片膝を立ててクラウドを組み敷いた俺の腕の下で、苦しそうに呻く顔を見るだけで自分の口端が歪む気がした。嫌だいやだと言いながら、結局は受け入れられるようになったこの体に魅入られてしまっている。
喉の奥が潰れそうな声を上げて、俺を根元まで受け入れたクラウドの指先に力が入る。とろりと溢れた透明な液体を指先で掬い取り、伝い落ちる寸前に接合部に塗りたくった。強く締め付けながら、ぐちぐちと音を立てて俺を何度も責め上げる。
「あ゛ぁっ……っく、う」
「クラウド、向こう向いて」
「ん……っ、い、っうぅ……」
俺に言われるがままゆっくりと背中を向けた腰を掴んで引き寄せる。完全に勃ち上がった俺をいとも簡単に飲み込んで行くそこからぐちゅりと濡れた音が漏れ、皮膚同士のあたる音が響いた。シーツの海をかき乱すクラウドの指先は強く握りしめられていて、枕に埋めた口元からは必死で快楽と苦痛に抗う声が零れ落ちる。
強く腰を掴んで何度も打ち付けるうちに、クラウドの声に余裕がなくなっていく。
抑えられていた声を制御しきれなくなった瞬間に引き起こし、一番奥まで押し込んだ。
「っあぁっ、あ゛、ざっくす、あ、ふぁぁっ!」
「いいよ、全部出せ」
「やだっ、や、や゛ぁぁっ!!」
宙に浮いた声とともにクラウドの体が強く痙攣する。逃げようとする体を背後から無理やり抱きしめたまま、動き続けた。白濁を出し切ったクラウドの体は引き攣れたまま。れを押さえつけるかのように何度も奥を穿ち続ける。やめろやめろと繰り返す唇に手を這わせると、落としどころをなくした唇が俺の指を噛む。その刺激が心地よかった。
「もう、や、無理、ああっ、あ゛ーっ!!」
涙声で許しを請うクラウドに謝り続けながら、何度も強く穿ち続けた。謝られてすぐに動きを止められる余裕なんてなくなっている程俺も追い詰めら れている。
「ごめん、クラウド、もうちょっと」
うねうねと自分自身に絡みつくクラウドの内壁の熱で、全身がとろけ落ちてしまいそうだった。ぎちぎちと締め上げるそこに追い上げられ、吐精感が込み上げる。喉が潰れそうな濁った声で喘ぐクラウドの表情が見られないまま、制御心を振り切ってしまった自分の欲を吐き出した。
「う、あ、ああっ……」
「はぁ、っあ、ごめんクラウド、我慢出来なくて」
「ううっ……」
枕に押し付けた顔を一切上げないまま大丈夫だと首を振り、ぐすぐすと鼻をすすりながら息を整えるクラウドに対する罪悪感。ごめん、以外の言葉が 見つからない。いつもそうだ。白い首筋と、服を脱ぎ捨てた背中の骨のラインを見る度に自制が利かなくなってしまう。
それでも拒まれたことは一度だってなかった。それで許されたと思い込んで、泣かせてばっかりだ。
何度も繋がってるけれど、まだクラウドは全てを俺に見せてはくれていない。行為の後に、毎回手首にくっきりと残るクラウド自身の噛み痕を見るた びに、少しだけ切なくなる。それは羞恥心からくる自制なのかそれ以外の理由なのはわからないけれど、このまま抱き続けていれば、きっといつか、まだ知らない部分すら晒け出してくれるだろうか。
クラウドに対する感情は本物だ。決して嘘じゃない。
だけどそれ以上にこの体にハマってしまっている自分がいる。
自制のきかない自分を反省してはいるけれど、それを受け入れて飲み干してしまうこの体から、離れられる気がしない。
* * *
AC Cloud
ハマったんだな、と思う。多分その一言が一番しっくり来るかもしれない。
ザックスに誘われるがままに手を伸ばしてベッドになだれ込むと、覆いかぶさるようにして抱きすくめられた。その重さを受け入れることがただ心地 よく、前髪を片手でかきあげられると同時に暖かい唇に吸い付いた。
ちゅ、と甘い音を立てて離れる。すぐにもう一度くっついて、ザックスの唇の先を舌でこじ開ける。耳元をくすぐるザックスの髪に手をまわして、同じように後ろへ流した。
目と目を合わせて鼻先が触れる。緩んだ口元をもう一度合わせて、それからお互いの舌が絡み合う。服の内側へ滑り込ませた両手いっぱいで肌の暖かさ を受け入れた。
「ザックス」
「ん」
脱ぎ捨てた服をベッドの外へ投げ捨てて、喉元に歯を立てられる。自然に閉じた目の奥は熱く、ザックスの指先が俺の体を這いまわる。心地いい刺激に思わず漏れたため息とともに目を開けると、薄暗い部屋の中に空色の瞳がゆらりと浮かび上がった。
「もう勃ってる」
「お前も、だろ」
やわやわと擦り上げられたそこは、ザックスの体を欲して硬く膨らんでいる。同じように触れたザックス自身も熱を増し、お互いを貪りたくて仕方がない。
ゆっくりとボタンを外され、下着をずらされる。露になった下半身がますます熱を上げる。だんだんと上がり始める吐息は、ザックスが俺自身を口に含んだ瞬間に嬌声に変わった。
「ふ……ぅん」
俺の良い所を的確に触れる舌に没頭した。一番膨らんだ部分のふちをちろちろとなぞり、つぷりと湧く透明を吸い上げる。わざとらしい音を立てて浅く深く。足の指の先に力がこもり、こらえきれない声を何度も宙に向かって吐き出した。
飲み切れなかった唾液が自身の入り口になぞり落ちる感覚に寒気が走り、腰のあたりがじわりと痺れ始める。くりくりと指先でいじられただけで体中の力が抜ける。
「指、入れていい?」
「……ん、んんっ、」
ザックスの指の節が飲み込まれていく刺激に跳ねる体。カサついた指先が自分の腹の中をかき回していく。ザックスに触れられなければ自分でも知ることさえなかった好きな場所を刺激されて、自分の感覚の制御をあきらめた。
「ふぁ、ああっ、そ、こ」
「ここ?」
「あ、あぁっ!」
指を折り曲げてその部分を抑えられる。目の前が白くなったようにチカチカして、耳元のシーツを強く掴む。もう一本に増やされた圧迫感に、閉じた瞼の縁からじわりと涙が浮かんだ。ずる、と引き抜かれて、また奥まで。何度か繰り返しているうちに、頭にもやがかかったようにぼんやりし始めた。
引き抜かれた指先に視線を向けると同時に、ふやけた指が太腿を割り開く。抵抗する理由が見当たらず、されるがままに受け入れる。
「あ、ああ……っはぁ、あっ」
「……ほら、もう入った」
「う、ん」
折り重なって来る背中に精一杯腕を伸ばして、強く抱きしめる。ゆっくりと動き始めるザックスの腰を無意識のうちに足で捕まえた。唇を割って入る熱い舌に自分の舌を絡めて、息が出来なくなるまで飲み込んで、それから何度もザックスの名前を呼ぶ。
「あ、あっ、ザックス、ううっ」
「うぅ、やべ、絞り取られそう」
汗ばんだ肌が触れ合って、何度も唇を塞ぎあう。濡れた音と俺の上げる声が部屋の中に混ざり合っては消える。折り曲げられた両足を掴むザックスの逞しい腕から逃れられず、俺を見下ろすソルジャーの瞳から目が離せなかった。
「は、あ、あっ、ああっ」
「クラウド……っ」
込み上げる欲望に耐えきれずに強く閉じた両目。瞼の裏側に浮かんでは消える、ザックスを失ってからの日々。ふらりと俺の前に現れたその姿を見た 瞬間に飛びついて泣きじゃくった日の夜から、何度も何度もザックスと体を重ねている。
「すげえ、気持ちよさそうな顔してる」
「あう、あ、ああっ、好い、すご……く、っあぁっ」
「もっと見せて」
ガツガツと奥の奥を突き動かされる。無意識に腰が跳ねて、息を吸いそびれた。反動で勢いよく吸い込んだ酸素にせき込んでしまう。手を止めようとしたザックスの両腕を強く握りしめて、口からこぼれるのは奥底に秘め続けていた本音。
「やめ、やめ……な、このまま、っう、ああっ!」
「……っ」
「もっと、奥、う、んんっ」
数えきれないほど抱かれた夜を繰り返した。ザックスを失う前に初めてした日の事を忘れた日なんてない。
だけど、ただ苦しかっただけの行為が、相手に気持ちを伝えるものだと気づいたのはいつからだろうか。
「ザックス、もっと、俺、ああっ」
「クラウド……っ!」
「俺、は……!」
指先に入る力の抜き方を覚えた。
ザックスが俺を見る目の美しさに吸い込まれた。
甘ったるい言葉を囁く唇に噛り付きたい、離したくない、ずっとこうして一緒にいたい。
俺の事、もっと沢山知ってほしい。
――もっと早く、知ってほしかった。
自覚した時には何もかもを曝け出していた。言いたい言葉が次々と浮かんでは消え、出そうとしては突き上げられてかき消されていく。頭の先から足 指の爪まで、全てを差し出してしまえば口下手な俺の事も伝わるような錯覚を見る。
「ザックス、も、いく……うぅっ!」
びくびくと下半身をふるわせて、思いっきり吐き出した。どくどくと波打つ自分自身から滴る体液で、俺の体が汚れていく。汗と白濁でどろどろになった体に、ザックスの体が重なった。
「もうちょい、行ける?」
「あぁ……大丈夫、まだ……うぁっ!」
「んじゃ、このまま……っ」
「ひぁ、あ゛、ああっ、いい、全部……っ!」
想いを伝えられるのは言葉だけじゃない。誰かが言ってた言葉だ。きっとそれは本当であり、嘘だ。伝えたい事なんていくらでもあるし、伝えるための言葉なんて星の数ほどあふれている。その一つ一つを順番に語り聞かせたところで、きっとほとんど伝わらない。
「好き、だ。好きだった、ザックス、昔からずっと、今も」
「……知ってる、全部知ってた」
だからと言って言いたいことを全て腹の奥に飲み込んで、こうやって抱かれたところでたかがこの程度。
それでももう二度と失いたくない、ただずっとこうして生きて行けたら、俺はもうそれで十分だ。
うまく言えない言葉と素直に受け入れられない体を何度悔やんだだろう。余計な言葉なんて投げる必要は初めからなかったのかもしれない。心と体さえ繋がっていればそれだけでいいと、一度失くした後にやっとわかったんだ。
ザックスに対する感情は本物だ。決して嘘じゃない。
だけどそれ以上にこの体にハマってしまっている自分がいる。
自制のきかなさを何度も反省するザックスを受け入れて、全部飲み干したい。
この体から、離れられる気がしない。
fin