ちゅうしゅうのめいげつ
流れ落ちる汗が喉元を滑り、触れた指先が絡みついた。湿った皮膚の感触はいつぶりだろう。心地いいと感じる余裕がついさっきまではあったはずなの に、気が付けば上がった息の整え方すら忘れて広いベッドの上でその行為に没頭する。
会えばするわけじゃない。
するために会うわけでもない。
だけど稀にこうやって、言葉の一つも交わさないまま勢いに任せて押し倒す時だって、ある。
ある意味、健康的?やってることが病的じゃないなら、そういう事だろう。俺もセフィロスも、普通に性欲のある人間だ。
「疲れてる?」
「少し」
「ん、苦い」
シーツの上に組み敷かれて、体が熱くて蹴り飛ばしたブランケットが音もなく床へと滑り落ちる。窓の外はいつもにも増して賑やかで、多分、俺たちがこんなところでこんな事をしている事を知っている奴はいないだろう。道端の観衆を盛り上げる大道芸人のおかげで、ほんの少しだけ気が大きくなった。
「……埃くせぇ」
「お前だって汗臭い」
「好きなくせに」
口をついて出て来るのは、そんな悪態半分の戯言ばかり。それでもお互いの皮膚の上を滑る指先はやわらかく、鼻先を擦り合わせては笑う。眠らない街の灯が差し込む窓には月明りは薄く、人工的な光に浮かび上がる影は長い。
長い髪の隙間を縫って肩に触れ、体を起こす。俺に覆いかぶさっていたセフィロスの体をベッドに押し付け、足を開く。
「俺が上になろっかな」
十分すぎる程勃ち上がったセフィロス自身に手を添えて、ゆるゆると擦り上げる。漏れた吐息とかすかに顰めた眉毛が、なぜか今日はとてもいとしい。
「珍しい事もある」
「……たまにはいーじゃん、楽しもうぜ」
前髪をかき上げたセフィロスが笑う。つられて俺も笑う。
前にこういう事をした日がいつだったか忘れてしまった程度には、久々の行為だ。
*
セフィロスの手は大きい。
俺より、少し、大きい。
その指が体にじわじわと侵入してくる感覚に今から飲み込まれる、その事実だけでまた体に熱を感じた。一度刷った息を大きく吐き、そっと受け入れる。指先に触れられたそこがひくりと震え、吐きつくそうとする息が、一瞬詰まる。
「怖いのか」
「ぜ、全然?」
思っていたより上ずった自分の声に吹き出しそうになりながら、素直に飲み込んだ。されるがまま振り回されるのは癪だと思い、セフィロス自身からとろりと伝う透明な液体に、指先でくりくりと触れる。ついと糸を引くそれを舌で舐め取ると同時に、体の中を押し進める太い指が俺の一番いい場所を探り当てた。
「あ、ぁっ」
瞬きひとつで視線が合う。
空いた手でセフィロスの髪を撫でつける。
腰に回されたてのひらが熱い。
マメに連絡を取り合うような仲ではないけれど、時々こうやって、お互いの粘膜に触れる行為にふけっている。街中にあふれる恋人同士ならもっと言葉を交わしたり、食事をとったり、触れた睫毛を愛でることは当たり前だろう。だけど俺たちは決してそんなんじゃない。戦って、血を浴びて、そのままなだれ込むようにして熱を冷ますだけの関係だ。
これが最後かもしれないと思わない日は、ない。
お互いの体液が混ざり合ってくちくちと水音を立てる。喉の奥に押し殺した声が鼻に抜ける。増やされた指がめちゃくちゃに体の内側を擦り上げる。上に乗るって宣言した手前反撃しなきゃとは思うけれど、結局こうやってセフィロスの思うがまま、翻弄される。
「セフィロス、なあ、もぅ……っん」
ずるりと引き抜かれた指の代わりに、後ろ手で探り当てたものをそっと添える。ぬるぬると糸を引くセフィロス自身を入り口にあてがって、そっと腰を落とす。
「う、うぅ……」
「いい眺めだ」
心底楽しそうな声に反論したくなったけれど、一番苦しい部分を飲み込むまではそれどころじゃない。硬く、太い異物が皮膚の内側に強引に分け入ってくる感覚。何度も同じように受け入れているはずなのに、いつだってこの瞬間は苦しくてたまらない。
「あ、あっ、きっつ」
「お前が楽しませてくれるんだろう?」
「ん……ちゃんと、見とけよ」
立膝のままゆっくりと腰を下ろす。無理やりこじ開けられるように体への刺激が来る。辛い部分を通り越した瞬間、一気に奥まで受け入れた。
「う、ぁ」
「はは……あんたがそんな声、だすなんて、珍しいな……っ」
ゆっくりと上下に揺らし、中を擦り上げる。一度入ってしまえばもう、うまく作り上げられた体。一番自分のいい場所を探り当てる様に腰を動かしながら、蕩けた顔のセフィロスを見下ろした。
「動くぜ」
「ああ」
立膝のまま、体の内側を滑らせる。セフィロスの先から溶け出す体液が滑りを良くし、気持ちいい振動がじわじわと広がっていく。耐えきれずに漏れ出した声を抑えようと片手で口元を塞ぎかけたけれど、ふいに手首を掴まれて、隠せない。
「あぁ、あ、セフィロス……声!だめだって……」
「構わん、もっと聞かせろ」
「だめ、だって……っうぁ、あっ」
俺が動くって言ったのを忘れたんだろうか。疲れているからちょっと頑張ってやろう、なんて思っていた俺の気持ちを無碍にされそうになり、慌ててその手を振り解く。
「俺が動くから、お前、ジッとしてろって」
くぐもった声で笑うセフィロスの両手首をベッドに押し付ける。膝を折り、繋がった部分を押し付けるように押し当てた。
「いっつも、お前の、やりたい放題されてるからな……っ」
「ほう」
「たまには俺が……っうぁっ!」
ずくりと体の芯を押し上げられて声が跳ね上がる。重力に従順な体はセフィロスに吸い寄せられるように落ち、下敷きになっているはずのそこが、強く最奥を突き上げた。
「ひぁ!あ、ああっ!せ、フィ……!」
掴んでいたはずの手首を返され、強く握りしめられる。逃げようとすると一瞬で解かれて、腰に回される。ぐちぐちとこすれ合う耳障りな音に羞恥心が 沸き上がり、うまく吸えない空気を求めて顔を上げる。
「はぁ、あ、ああっ!ちが、俺っ!」
「……いい眺めだ」
無理矢理開けた薄目の先でゆらりと笑う魔晄の目。
射止められてしまえば、多分もう、逃げられない。
そういう顔を見せられるのは嫌いじゃない。こういう顔を見られるのは、俺一人。突き上げられて、振り回されて、吐き出したい感覚に追い上げられ る。止めろと懇願して許してもらえるような相手ではないとわかってるけれど、体の中を蹂躙されてわけがわからなくなるのが嫌だから、今日は俺が頑張ろうと思っていたのに。
「あ、う……うぁ、あ、セフィロス、やば、出る、あぁぁっ!」
とろとろと透明の液体がこぼれおちる真ん中を擦り上げられる。二重の快感に追い上げられ、強く打ち付けられる。
「出せ」
「ふぁ、あ……っ!!」
震えながら、言われるがまま吐き出した。どくどくと脈打つ体が弛緩する。ゆるやかに扱かれ、どろりとあふれ出した白濁がセフィロスの腹を汚す。崩れ落ちそうになりながら息を整えふと顔を上げると、満足そうに笑う英雄様と、目が合った。
「くっそ……また先にイっちまった……」
「ああ、俺はまだ満足していない」
繋がったまま体を起こすその振動が、ひくりと結合部に響く。流れ落ちた汗を唇で掬い取り、もう一度鼻先を合わせて笑う。額、眉、瞼へ落としたキス。肩に置いた頭を撫でつけられ、背中に回された腕で強く抱きしめられる。
「まだいけるか?ザックス」
「……とーぜんだ、朝まで相手してやるよ」
顔も見ずに返事を返し、同じように強く抱き返す。
気が付けば騒がしかった窓の外には、秋を告げる月がまあるく光っていた。
fin