真夜中馬鹿二人

  重くなる瞼に抵抗したくて体を返した。隣で目を閉じるセフィロスに言葉を掛けようとして、すぐにやめる。
本当に寝ているなら起こしちゃ悪いし、狸寝入りだった場合は――どうしようか。
「眠れないのか」
「んー? そういうわけじゃないけど」
 四秒で呼吸を繰り返せ、となおも目を伏せたままのセフィロスは言う。そんなの今更言われなくたって知ってるさ。どこでだって、いつだって眠れなきゃいけないソルジャーにとっちゃあ、当然の知識だ。
「眠れないんじゃなくて、寝たくないんだよ」
「……好きにしろ」
「好きにしていいなら、話し相手になってくれよ」
  ブランケットをかぶり直しながら、セフィロスの方へと体を向ける。特に反応を返してくれることもないまま、セフィロスは小さく息を吐いた。
「あのさ、俺……時々あんたの事独り占めたしくなるんだ」
 ここだけ聞けば、かわいいもんだと思う。思われているだろう、とも思う。
 だけど多分、俺の抱いている感情はそんな生易しい物じゃないんだ。
「例えばさ、あんたの両腕噛み千切って、俺の腰に巻き付けておきたい、とか」
「……」
 まるでかわいそうな生き物を見るような目でこっちを見るセフィロスに、視線を返す。冗談だと思ってくれればそれで いい、俺だって本気でやるつもりは毛頭ない。そもそも俺達はソルジャーだ。何のために存在するか、なんて事を改めて説教なんてされたら、それこそひとたまりもない。
「気でも狂ったか」
「全然? だってあんたを本当に独り占めしようと思ったら、それぐらいしなきゃ無理だろ?」
「……その程度でお前の物になれればいいな」
 確かに、と思わず笑いが出る。天下のセフィロスが両腕を千切られた程度で、誰かの物に成り下がるだなんてありえな い。それこそ失望だ。独り占めしたい気持ちと、俺の手中になんて簡単に収まらないでほしい、と思う気持ちが交錯し始めた。
「ちなみにさ、あんたは……俺の事、そういう風に思う事、ない?」
「……」
「ないかぁ~」
 わかっちゃいたけど、やっぱりないらしい。どこかで安心しながら、どこかで少し悔しいと思う。まるで好きなのは俺だけみたいじゃないか、なんて、柄にもなく口を尖らせる。鳥さえ飛ばない深夜、真っ暗な部屋の端。衣擦れの音だけがかすかに響く空間で、セフィロスは このまま返事もなく、寝入ってしまうんだろうか。
「あー……冗談だよ、冗だ……」
「目だ」
「ん?」
 セフィロスが大きく息を吸い込み、そのままゆっくりと吐き切る。目だ、とだけ言われたって何のことかわからないまま、次の言葉を待つ。
「お前の目を潰そう。そうすれば、最後に見たのは俺になる」
「……は?」
「お前が俺の腕を千切りに来るのなら、俺はそうする」
 お前の考えている事は全くわからないが、と付け足して、セフィロスはまた黙り込んだ。 言葉の意味を反芻する。
 俺は、セフィロスの手が俺以外の誰かに触れてほしくないと思った。
 セフィロスはどうやら俺に、自分以外の誰かを目に入れてほしくないらしい。
――それって、それってさあ。
「あんた……俺より重い事言ってる自覚ある?」
「知らん。お前がわけのわからない事を言うから、合わせただけだ」
 無理矢理体を返し、こっちに背を向けたセフィロスがブランケットをかぶり直す。頭の先まで隠されてしまった大きな 背中に、つい笑いを噛み殺す。
「……あんたさあ、もしかして俺の事……すっげえ好きだったり、する?」
 もう一度、知らん、とだけ返されて我慢できずに吹き出した。まるで拗ねた子供みたいに背を向けたままのセフィロス から、抗議の声さえ返ってはこない。だけどなぜか嬉しくて、思わず背中越しに腕を回す。
「……少なくとも」
 否定も抵抗もないセフィロスの肌から、振動した声の温かさが伝わる。背中に押し付けた額を伝って、心臓の音さえ聞こえてきそうだ。恐ろしい速さで長刀を払い続ける男の心音は今、瞬きをするだけでもかき消えそうな程小さく、温かい。
「お前が俺を独占するより、俺がお前をそうする方が早いのは確かだ」
「き、急に何言ってんのあんた……?」
「知らん」
 いいから寝ろ、とまるで吐き捨てるように言い残して、セフィロスは穏やかに寝息を立て始める。言われた言葉がぐるぐると頭の中を巡り、うっすらと体の一部になって、溶けて行く。
 こっちに合わせたって言ってるけど、もしも、もしもセフィロス自身の本音だったらすごく嬉しいと思う。もしそうだとしたら、これ以上のやり取りに何の意味もない事を確信した瞬間、瞼の重みに耐えられなくなった。



fin






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2023/10/12
先日とあるライブイベントでとても素敵な歌を聞いたので少しそれに沿って書きました。
思えば二次創作を始めたばかりの頃は、この手法でばかり書いていたなあ…。