星崩しの積み木3

目の前に広がる真っ赤な光景に足がすくむ。襲い掛かって来る熱波に目が焼けそうになり、思わず手で顔を覆った。姿が見えなくなったセフィロスの居場所はとっくに特定していたけれど、ついぞその部屋から引きずり出すことは叶わないまま、この光景に言葉を無くしている。
「ひどい……」
姿を隠してしまった神羅の英雄。その居場所を突き止め、声を掛けてみても返事は帰ってこなかった。無理矢理開けようとしても開かない古ぼけた扉の先で、セフィロスが何を見聞きしているかはわからなかった。宿に帰ったものの、一般兵と二言三言交わしているうちに苛立ちが募り、剣を振り上げる。金髪の一般兵に宥められ、なんとか心を落ち着けた。
姿が見えない事に疑問を持った。
何度か、地下室に足を運んだ。
こんな事になるのなら、無理やりにでもあのドアを破壊してしまうべきだった。
「セフィロス……」
髪に触れるだけでよかったんじゃなかったのか。
背中に手を伸ばせば、相手をしてくれると言ったじゃないか。
たったそれだけで良かったはずだろう。
穏やかに笑う顔で提案されてしまった手前、本気の遊びだと受け取った。
俺は、セフィロスの間合いに飛び込むことを躊躇し続けてしまった。
そんな簡単な条件なら、絶対に達成できると思っていたんだ。
それなのに。
セフィロスは俺に、絶望を積み上げろと笑った。あの瞬間の冷ややかな目に言葉が一瞬詰まった、あの時の自分の感覚をもっと信用すべきだった。
――真剣だったんだ、俺も、セフィロスも。
俺はただセフィロスと酒を飲みたかっただけだ。一本取るまで訓練に付き合ってほしかっただけだ。ただそれだけの為に。自分が強くなるために、胸を張ってセフィロスと肩を並べたいが為だけに。ただそれを追い求めて、強さの理由を聞いた。
『絶望を積み上げろ』
返された言葉の意味が分からなかった。セフィロスはきっと俺なんかよりずっと努力して、辛い思いをしてきたんだろう。それでも前に進めと言ってく れた。
そう受け取っていたんだ。
――違ったんだな、セフィロス。
文字通りの言葉を、俺にくれたんだ。
「なんでだよ」
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
「なんでだよセフィロス!!」

振りかぶった剣を弾き飛ばされ、体ごと部屋の外へ吹き飛ばされる。隣をかけていく一般兵のヘルメットがぼやけ、頬に一筋涙が伝う。
出会えてよかった。頼ってもらえて嬉しかった。もっと、何度でも一緒に任務を失敗したかった。いつか全てが元通りになった時には、心底の笑顔が見られると思っていた。俺にない物を持っていたセフィロスに、俺が持っている物を渡したかったんだ。
だけど、それももう、やめだ。
俺が今まで積み上げてきたものは、確かに希望だった。
自分ではそう思っている。
それでもセフィロスに聞いた強さの理由が「絶望」なら、同じように受け入れようと思っていた。どんなに辛くたっていつか並んで立てるなら、乗り越えてやろうと思っていた。
だけどセフィロス、お前が俺に贈ってくれた言葉の意味、強さの意味、その先に求めたものがこんな光景だったって言うのなら、俺は二度とお前の言葉なんて信用しない。
お前が俺に向けてくれた愛情がこんなものだったのなら、俺はもう、お前に何も求めない。
俺は、お前の全てを否定して、生き抜いてやる。

暗転した視界の向こう側に、どこかで聞いたような声が響く。
抱え上げられて担がれる体から力が抜けて行く。
瞼の裏側に、燃え落ちる村の光景が広がり続けていた。







fin