アンジールが長期遠征らしくて、セフィロスの所に行けって言われた。
だから別に一人でも大丈夫だって言い張ったけれど、こっちのメンタルが大丈夫じゃないってまた言い返された。
仕方ないから、アンジールの言うとおりにしてやろう、と思った。
大人の子守も楽じゃないな。
英雄と子犬のワルツ
いつもなら任務終了後はアンジールと合流して、一緒に飯を食ったり風呂に入らされたりして、帰るのが面倒臭くなって自分の部屋に帰らずそのまま朝を迎える。でも、今回はさすがに同じようには出来ないかもしれない、と思った。 流石に大英雄のセフィロスに飯せびったりするわけには行かないし。
本当なら適当に売店で買い込んだ食べ物抱えて帰宅して、カンセルでも誘って朝までダラダラ過ごしてやろうと思ってたんだ。だけど、アンジールからあんなに頼み込まれたら仕方ないじゃない。あんまり気乗りはしないまま、自分の憧れでもあったセフィロスの元に駆け寄った。
「おっ、お疲れ様です、サー……」
「アンジールから話は聞いている」
なんて呼べばいいんだろうと思って口ごもった瞬間、いくぞ、と短く伝えられて、そのまますたすたと前を歩きだす。とりあえず言われるがまま後ろを 黙ってついて歩いてみたら、思ったより歩くのが早くなくて安心した。カツカツと鳴る足音に合わせて揺れる、ものすっごく長い髪。ああ、これはこれで綺麗だなあ。俺もこれぐらい伸ばしてみたら、こんな風になれるんだろうか。
一瞬セフィロスぐらい髪の伸びた自分を想像してみたけれど、多分戦闘中に自分の髪が邪魔で食っちまうかぶち切ってしまいそうだな、と思いなおして、伸ばすことはあきらめた。
「セフィロス……どこ行くんだ?」
「飯だ」
「マジで!?」
「……いらないのか」
なんで驚いてるんだ、と言わんばかりの顔でセフィロスがこちらを振り向いた。なんとなく、あんまり飯とか食べるイメージがなかったし、家だってどんなものが置いててとか、さっぱり想像がつかない。だからアンジールに頼れといわれていたところで苦手な任務報告だとか、それこそ任務先での話だ と思い込んでいたから。
まあ、いいや。
そういう事なら、遠慮なく。
「セフィロス!俺、肉!肉食いたい!!」
アンジールに肉って言ってもいっつも野菜いばっかり食わされるんだ。あいつ自分がオッサンだからって育ち盛りの俺に合わさせるのどうかと思うんだよなあ。セフィロスは?肉好き?野菜も食うの?野菜食わねえとセフィロスみたいになれないんなら、まあ食うけど。
ずんずん歩きながら言いたい放題言ってやった。アンジールの面倒見るのは大変なんだよって話、誰かに聞いてもらいたかったんだよな。
気が付いたら入ったことのないでっかい店の前に立っていた。
気のせいかもしれないけれど、扉を開けた英雄の方からからふふ、と笑う声が漏れたような気がした。
*
俺が肉をもりもり食ってる間、セフィロスは酒を飲んでるだけだった。
「……それで腹膨れるの?」
「問題ない」
絶対嘘だ!って叫びそうになったけれど、もしかしたらすごいサプリとかを飲んでるのかもしれない。だから、ふーん、とだけ返して、皿の残りも全部かっさらってやった。食べ残しは失礼だからな。
まったく、セフィロスの世話までしないといけないなんて、ソルジャーってほんと辛いぜ。
財布を出せば「妙な気を回すな」と言われ、明日の予定を聞くと「いつも通りだ」とだけ返される。うーん、アンジールほど話が盛り上がらないな、と思った。だけど、俺が話している時の表情は何となく柔らかくて、多分俺、嫌われてはいないんじゃないかな。 英雄の心まで掴んじゃう俺って、もしかしたらすごい才能あるのかも知れない。
「明日も出撃だろ?俺はいいけど、セフィロスはそろそろ帰らないとダメかな」
「……ああ、そうだな」
今日はごちそうさまでした!と両手を顔の前で合わせて、ふと通りの向こうを見た瞬間。
目に飛び込んできたのは俺が三軒回って見つけらけなかった限定販売のサハギン出汁醤油味のポテチ。
目を疑うレベルで店の前に大量に陳列されていて、思わずフラフラと歩み寄ってしまった。
「あーっ!うわ、なんで?俺めっちゃ探したのにこんなところで……うっ」
いそいそと尻ポケットの財布を取り出して、中身を確認する。残念ながらポテチごときが一つも買えない程度のコインしか入ってなくて、でっかいため息が出た。
とたん、背後にゆらりと感じた気配に振り替える。銀色の綺麗な髪が揺れて、セフィロスが俺を見下ろしていた。
「お前……その手持ちでよく財布を出したな」
「いや、そこはこう、ポーズっていうか……いやー……えっ」
「欲しいんだろ」
するりと俺が掴んでいた袋を取り上げて、レジの方へ向かう。あーあ、レジのお姉さん飛び上がりそうなほど驚いてるし、手まで震えてるよ。表情一つ変えないままにそれを手に取って、俺の方へと戻ってくる。目が完全にハートになってるお姉さんに軽く手を振ってみたけれど、俺の事は眼中になさそうだった。
でも、残念でした。
それ食べるのは俺なんだもんね。
「あの、ありがと……」
「食いすぎると体が重くなるぞ」
ああ、俺今、振り返って目が合った英雄の笑った顔、独り占めしてるんだ。世界中の男が憧れて、世界中の女の子が目を輝かせるセフィロスの、笑った顔。
なんだ、超いい奴じゃない。
「なあ、セフィロス」
「なんだ」
「今から、家、遊びに行っていい?」
ふ、と目尻が下がったなあと思った瞬間、くるりと振り返ってまた歩き出す。ついていっていいのか、と聞くと、もう一度こっちを見る。
「アンジールには内緒だぞ」
人差し指を唇に当てて、表情は相変わらずのまんま。だけど、多分その顔とか声は、今のところ世界中で誰も知らない顔なんじゃないか、と思う。
内緒だからな、と繰り返し言われて、首を縦に振った。なんかバレたら困る事でもあるんだろうか、大方、甘やかさないでくれだとかなんだとか、そん な事を言われてるんだろうけれど。
「んじゃ一緒にポテチ食べようぜ!セフィロス、飯あんまり食ってなかったじゃない!」
フフフ、と笑うだけの返事を返してくる神羅最高の英雄様。
こんなすごいやつなのに、案外面倒見のいい兄ちゃんだって事、だぁれも知らないだろ?
そんなわけで、残念でしたアンジール。
俺はもう十分セフィロスに甘やかされてます。
大人相手の隠し事って、俺自身も大人になったみたいで悪くない。
fin